この写真は、本年4月、総理主催の桜を見る会における安倍総理を囲む人だかりの様子である。この頃、総理への国民の期待は大きなものがあった。
現在、総理はアジア各国を歴訪中であるが、マスコミは、専ら総理帰国後の組閣問題に焦点を当てている。さきの参院選挙での与党・自民党の予想外の惨敗からすれば、マスコミが国民の最大の関心事として国内問題を追うことはやむを得ないものの、ちょっと往き過ぎのようにも思わる。
このように内政問題に終始している世論に対して、「動き始めた東アジアの『地殻変動』に日本は『堅実』かつ『大胆』に取り組む必要がある。」として、激変する東アジアに目を向けるべきであると力説しているのが、京都大学の中西輝政教授である。「激変する東アジアに目を向け 主体的な行動で国益を守れ」(WEDGE9月号、「羅針盤」)と題する記述を読んだ。
中西教授は、安倍総理のブレーンのひとりと言われている。時折、その発言は物議をかもしている。 従って、反論も多いことも念頭に置きながら、ひとつ見方として紹介しておきたい。
まず、同教授は東アジア情勢を概ね次のように捉えている。
(1)東アジアをめぐる政治日程として、本秋に中国共産党大会(5年毎)が開催され、本年末には韓国の大統領選挙があり、来春には台湾の総統選挙、ロシア大統領選挙、さらに11月には米国大統領選挙がある。
(2)中国は、軍部から企業、農民に至るまで指導部に従わない勢力が増大し、国家の統制能力が脆弱化している。そんななか、日中間の懸案である東シナ海の「海洋開発問題」は、一つ間違えば台湾問題に波及する。
(3)その台湾では来春の総統選挙において、独立派の与党・民進党が政権を維持することになれば、中国が北京オリンピック終了を俟って早期の台湾合併に動き出すことも予想される。この台湾情勢がさらに深刻化すれば、日米安全保障の根幹を揺るがしかねない。
(4)日本は、安全保障戦略上、「堅実」に日米同盟を基本線に据えて中期的な視点で対処するとともに、「大胆」な手として集団的自衛権の行使を表明することにことが、欠かせなくなりつつある。
(5) 対北朝鮮問題は、本年末の韓国大統領選挙の結果如何にかかわらず、同国の「親北政策」の流れは変わらない可能性があり、米国も来年暮れの自国の大統領選挙モードのなかで対北融和に戦略を転じてきているが、日本としてはこれまでの拉致・核問題の解決という「堅実」にブレがあってはならない。(資金的に?)日本以外に北朝鮮の運命を救える国はないことは明らかであり、米国の対北融和政策は失敗する可能性が高い。仮に米国の対北接近が限度を超えた場合は、日本は対北朝鮮問題に関して専ら米中にリードされ影響力を発揮できないでいる「ロシア」というカードを切って、米国の戦術変化を牽制することもできるのではないか。ロシアにしても、大統領選挙を控えて対北朝鮮問題に対しては口を挟みたいはずである。
このような情勢分析をふまえて、同教授は、次のように述べている。
「東アジアにおけるこれら一連の情勢変化は、日本にとって、むしろ今こそ「アジアの大国」として主導権を発揮するチャンスととらえるべきである。南方(東シナ海)の問題では、集団的自衛権を行使して、自らの意志で安全保障行動をとれるようにしておくことは、米国追随の対外姿勢から脱却し、中国に対しても強力なカードを持つことになる。」として、安倍政権が打ち出した『価値観外交」を後押ししている。
また、日本は、「東アジア共同体」と言った「狭いアジア」ではなく、日米関係を基軸にしながら、米国、ロシア、インド、豪州といった「外アジア」との緊密な関係を構築したうえ東アジアとの周辺国関係を再構築していくべきであるとしている。
確かに、中国の内政はたいへんなようだ。北京オリンピック後に台湾合併問題が浮上することによって中国は、国内世論のホコ先を一点に集中させ、国内統治を強化することができる。となと、こうしたシナリオも考えられなくもない。また、集団的自衛権の行使については、この議論の延長線上には、民主党の分裂を孕んだ政界再編も考えられなくもない。
いずれにしても、本年4月、安倍総理は、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長」柳井俊二・国際海洋法裁判所判事)を設置している。中西教授はそのメンバーには入っていないが、この有識者会議の議論は注目しておく必要がありそうだ。